はじめに
人生100年時代と言われる現代において、終活という言葉が広く知られるようになりました。終活とは、人生の終わりに向けた準備活動のことを指しますが、単に死に向けた準備ではなく、残りの人生をより充実したものにするための前向きな取り組みでもあります。特に重要なのが、お金に関する計画であるマネーライフプランの策定です。
終活におけるマネーライフプランは、老後の生活資金の確保から相続対策まで、幅広い金銭面での準備を含みます。適切な計画を立てることで、自分自身の老後生活を安心して送ることができるだけでなく、家族に迷惑をかけることなく、むしろ円滑な相続を実現することが可能になります。
終活におけるマネーライフプランの重要性
終活を考える上で、お金の問題は避けて通れない重要な要素です。老後の生活には想像以上に多くの費用が必要となり、医療費や介護費用、日常生活費など、様々な支出が発生します。また、自分が亡くなった後の葬儀費用や相続税の問題も考慮する必要があります。
マネーライフプランを策定することで、これらの将来的な支出に備えることができます。計画的に資産を管理し、必要な保険に加入し、相続対策を行うことで、自分自身の老後生活の質を向上させるとともに、家族の負担を軽減することができるのです。
さらに、マネーライフプランは単なる節約や貯蓄の計画ではありません。人生の最後まで自分らしく生きるために、どのようにお金を使うかという積極的な計画でもあります。趣味や旅行、社会貢献活動など、やりたいことを実現するための資金計画も含まれます。
老後の生活費の現実的な見積もり
老後の生活費を正確に見積もることは、マネーライフプラン策定の第一歩です。総務省の家計調査によると、高齢夫婦無職世帯の平均的な月額支出は約26万8千円とされています。単身高齢者の場合は月額約15万円が目安となります。住居費については、持ち家の場合でも年間30万円から50万円程度の維持費用が必要です。これには固定資産税、修繕費、火災保険料などが含まれます。賃貸住宅の場合、月額8万円の家賃とすると年間96万円、20年間で1,920万円の支出となります。バリアフリー改修には平均150万円から300万円程度の費用がかかることも考慮する必要があります。
医療費については、70歳以上の一般的な自己負担額は年間約20万円から30万円程度ですが、重大な病気になった場合は年間100万円を超える可能性もあります。
それらも踏まえ、交際費や娯楽費、趣味m年に数回の旅行、孫や子どもとの交流のためのお金など踏まえ、不自由のない生活を送るための生活費はご夫婦の場合には約月37万円、独身世帯の場合には約月25万円が必要だと言われています。
これに加え、介護対策資金と葬儀費用が必要となります。介護費用は在宅介護で月額平均5万円程度、施設介護では月額12万円から15万円程度が必要となり、平均的な介護期間は約5年間とされています。そのため、介護費用だけで500万円から900万円程度の資金が必要となる計算です。一般的な葬儀費用は約200万円から300万円程度とされており、家族葬など小規模であれば100万円以下で実施することも可能です。
食費や光熱費などの基本的な生活費に加えて、老後も充実した生活を送るためには、これらの費用も適切に予算に組み込むことが重要です。
年金制度の理解と活用
老後の収入の柱となるのが年金制度です。日本の年金制度は三階建て構造になっており、国民年金、厚生年金、企業年金や個人年金などの私的年金で構成されています。
国民年金は全ての国民が加入する基礎年金で、満額でも月額約6万6千円程度(年額約79万円)です。厚生年金は会社員や公務員が加入する制度で、平均的な受給額は月額約14万円から16万円程度とされています。夫婦合わせても国民年金と厚生年金を受給しても月額約22万円程度となり、前述の支出額37万との差額は月額約15万円、年間では約180万円の不足が生じることになります。
この不足分を20年間で計算すると約3,600万円、30年間では約5,400万円の自己資金が必要となります。ここには介護費用・葬儀費用は加味されていないため、プラスアルファで必要となってきます。退職金の平均額は大学卒で約2,000万円とされていますが、企業規模や勤続年数によって大きく異なります。中小企業の場合は1,000万円を下回ることも珍しくありません。つまり年金と退職金だけでは老後資金を賄うことができないのが実態です。
年金だけでは不足する生活費を補うために、退職金や個人の貯蓄、投資収益などの自助努力による資産形成が重要になります。また、働ける間は継続して働くことで、収入を得ながら年金の受給を遅らせることも有効な戦略です。

資産運用と投資の考え方
老後資金の確保には、単なる貯蓄だけでなく、適切な資産運用も重要です。特に長期間にわたる老後生活を考えると、インフレリスクに対応できる投資も検討する必要があります。
つみたてNISAやiDeCoなどでの積立てが有効です。金利を味方につければ積立て額を大きく上回る資産を残すことが可能です。更にiDeCoは所得控除の対象となるため、税負担の軽減効果も期待できます。
ただし、投資にはリスクが伴うことを忘れてはいけません。リーマンショック時には株式市場が約50%下落したように、短期的には大きな損失が発生する可能性があります。そのため、老後資金の全てを投資に回すのではなく、預貯金300万円から500万円程度の緊急資金を確保し、残りの資金で投資を行うことが推奨されます。
保険の見直しと活用
終活において保険の見直しは重要な要素です。現役時代に加入した生命保険や医療保険が、老後のライフスタイルに適しているかを確認する必要があります。
生命保険については、子どもが独立した後は死亡保障の必要性が低下する一方で、葬儀費用や相続税対策としての役割が重要になります。一般的な葬儀費用は約200万円から300万円程度とされており、この程度の終身保険に加入することで遺族の負担を軽減できます。また、相続税対策として活用する場合、生命保険の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」となるため、適切に活用することで節税効果が期待できます。
医療保険については、公的医療保険の自己負担限度額は70歳以上で月額約5万7千円程度(一般所得者の場合)ですが、差額ベッド代や先進医療費は全額自己負担となります。がん治療の場合、先進医療を含めると300万円から500万円程度の費用がかかることもあるため、医療保険でカバーすることを検討する必要があります。
エンディングノートの活用
エンディングノートは、自分の人生の記録と最期の意思を家族に伝えるための重要なツールです。法的効力はありませんが、遺言書と併用することで、より詳細な意思表示が可能になります。
エンディングノートには、基本的な個人情報、家族構成、友人関係、財産の状況、保険契約の詳細、銀行口座の情報、デジタル資産のアカウント情報などを記載します。また、医療に関する希望、葬儀の希望、お墓の希望なども含めることができます。
特に重要なのは、日常生活で使用しているデジタルサービスのアカウント情報です。インターネットバンキング、証券会社のオンライン取引、各種サブスクリプションサービスなど、本人しか知らない情報を整理しておくことで、家族の負担を大幅に軽減することができます。
エンディングノートは一度作成して終わりではなく、定期的に内容を見直し、更新することが重要です。家族構成の変化、財産状況の変化、意思の変化などに応じて、常に最新の情報を維持することが必要です。
家族とのコミュニケーション
終活において最も大切なのは、家族との十分なコミュニケーションです。自分の意思や希望を家族に伝え、理解を得ることで、将来的なトラブルを防ぐことができます。
お金に関することは特にデリケートな話題ですが、避けて通ることはできません。財産の状況、相続に関する考え、介護や医療に関する希望などについて、率直に話し合うことが重要です。
家族会議を定期的に開催し、終活の進捗状況を共有することも有効です。また、専門家を交えた相談会を開催することで、より客観的で専門的なアドバイスを受けることができます。


