相続が発生した不動産の登記情報を見ると相続人全員の共有名義となっているケースが非常に多いです。相続税の申告期限は、被相続人が亡くなってから10ヶ月以内です。相続発生直後は時間的な余裕があるように見えますが、交渉が長引き気がついた時には残された時間が僅かしかなくなり、焦って遺産分割協議が行われることも少なくないです。
遺産分割協議でどの遺産を誰が相続するか、または遺産をどう分割するかを決めることになりますが、相続人が複数人いた場合、お仕事が忙しかったり、遠方に居住されている人がいたりすると全員が一堂に会することが難しくなります。近年だと相続人の中に海外に居住されている人がいるケースも少なくありません。また偏った分割に反発する相続人がいたり、被相続人から特定の相続人に結婚資金や学費援助、住宅購入資金、事業資金援助などいわゆる特別利益と考えられる贈与を受けている相続人がいると、なかなか遺産分割協議がまとまりません。
以上のようなケースで結果申告期限までの時間がなくなり、税理士からの法定相続分での共有分割の提案をよく考えずに受け入れ遺産分割協議を完了してしまうこともあります。
では、不動産を複数の相続人で共同で所有することの問題点を3つほど挙げてみたいと思います。
①認知症の相続人がいた場合
法定相続分で共同所有にした場合に所有者の一人に認知症の人がいた場合、その方に成年後見人がついていないと、判断能力が無いことを理由に法的手続きや判断が何もできなくなってしまいます。物件の売却をすることができなくなることは当然ですが、共同所有の不動産に不具合が出た時に修繕工事を発注することもできなくなる可能性もあります。雨漏りが発生したため屋根の修繕工事を行うことだったり、外壁の塗装工事を行うことも緊急性が高いにも関わらず直ぐに発注できなくなることも考えられ、このような事態になってしまうと不動産の資産価値を維持することが難しくなり、不動産の劣化を早める原因になりかねません。
②共同所有者が亡くなった場合
共同所有者の一人が亡くなったことで相続が発生すると、亡くなられた方の相続人が持分を相続によって所有することになります。ここでまた法定相続分で分割すると、相続人がその分増えることになるのはもちろん、遺産分割協議で揉めて遺産分割ができない状況が続いたりすると、その間は不動産の保全行為もできなくなり①同様に資産価値維持が難しくなることもあります。また新たに相続により共同所有者となった方と元々の共同所有者が面識がほとんどなかったりすると、不動産の保全行為についての意見が合わず揉めることも出てくるかもしれません。
③共同所有者が持分の処分を検討した場合
共同所有者の一人が生活に困窮したとの理由で持分を現金化することを検討されることもあるかもしれません。万が一共同所有者の一人が共有持分買取を行う不動産業者に売却してしまい所有権がその不動産業者に移行してしまうと、不動産業者は持分だけ所有していても利益にならないので商品化することを考えます。商品化するためには他の共同所有者の持分も全て購入して自社所有の不動産にする必要がありますので、他の所有者に対してそれぞれの持分の売却を提案してくることが当然に考えられます。また、不動産業者が相続した不動産の共同所有者でいる限り、何をするにしても不動産業者の意向を確認しなければならず、売却どころか思うように不動産の保全行為すらもできなくなります。そして、この状態が続くと持分を不動産業者に売却する共同所有者が現れ、他の所有者もそれに続くようになります。この場合、本来の不動産の売却価格よりかなり低い金額での処分を求められることとなり、共同所有者にとってはデメリットしかないかもしれません。
相続した不動産を法定相続分でオートマチックに共有してしまうと以上3つの事例のような問題が出てきます。ただ、3つの事例は起こり得るトラブルの一例に過ぎず、挙げさせてもらった事例以外にも様々な問題が起こることもるため、安易に法定相続分で共同所有にして相続税の申告をすることについては考えなければならず、相続人間でなるべく早期に協議を始め、余裕をもって熟慮を重ねることが必要です。

